小さいころに、真っ白で温かい、まるで朝の陽ざしに包まれた夢を見たことがある。
きっと幸せな夢なのだろう。口一杯に広がる甘い砂糖水は、おやつの後だったのだろうか。
音も聞こえない、声も出せない、体は動かない。けれど、味覚と視覚だけで、夢の世界は天界のようにすら思えた。
十分に、幸せだった。頬に落ちてくる温かい砂糖水の虚しさ以外は。
ふと、その夢の事を思い出したのだ。
あの砂糖水の甘さは、思えば孤独と後悔に殺されるような味だった。
何が孤独だったのか、どんな後悔だったのか、分からない。ただ、不思議とそう思えた。
何故、その夢を覚えているか今でも分からない。ただ、忘れてはならないと鮮明に脳裏に焼き付いている。
あの砂糖水の正体は分からない。
あの朝日の正体も分からない。
あの真っ白な景色の正体すら。
分からない。けれど、何故だか、虚しくなる。「死んでもいい」とすら、思えてしまう。
ふと、一粒の砂糖粒の話を思い出した。
砂糖粒で人を殺す事は容易だ。例えば毒を混ぜればいい。強力な毒であれば、それを食べれば人は死ぬ。
例えば後ろから撲殺すればいい。銃殺でもいい。溺死でも、焼死でも、方法はきっといくらだってある。
けれど、違う。
僕はこの夢を見たとき、初めて殺されたのだ。
孤独の虚しさと、悔しさに。たった一粒の、砂糖水に。
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写真の裏には「Adolf・Unglück.1.16」と書かれている。
いつの写真か分からないが、最近撮られた写真の様だ。
冬の朝日の様だが、詳しい事は分からない。
×××
「聞いてくれ。僕は砂糖粒一つで、人を殺す方法を見つけたんだ」
「それには君が必要な事も。」